フェアトレード北海道代表理事の萱野教授にインタビュー
「フェアトレード北海道」代表理事を務め、北星学園大学で「北星フェアトレード」をけん引している萱野 智篤教授にインタビューを行いました。
近年のフェアトレード北海道では、地産地消、障がい者支援、災害地支援もテーマに
―フェアトレードについてお聞きしたいと思います。改めて「フェアトレード」とは
「フェアトレードは、途上国の生産物に適正な価格を設定し、透明度の高い公正な貿易取引によって先進国に紹介、販売することで、途上国の人々の生活の向上を実現していこうという取り組みです。援助活動と混同されがちですが、フェアトレードは一方的ではなく、双方が対等の立場で向き合います。ごく当たり前の取引関係なのですが、世界の貿易構造そのものが不公正な状態から抜け出せずにいるので、あえて『フェア(公正)』という言葉を使っているのです」
―先月は札幌の大通公園で「フェアトレード北海道」が主催している「フェアトレードフェスタinさっぽろ」も行われ、とてもにぎわっていましたね。10周年を迎えたということですが、年々規模も拡大しているようですね
「はい。大通会場で10周年ですが、その前は2003年に屋内にて小規模に始まりました。年々増えて、今年は1万3千人ほど来場されたと推定されます。また、近年では国際的なフェアトレードに加え、有機・無農薬野菜の販売促進や障がい者支援、災害地の復興支援ということもテーマにしています。フェアトレードを『厳しい状況に置かれている生産者さんと公正な取引をする』という広い意味で捉えると、その対象は必ずしも海外ばかりではないのです。」
若い層を中心に浸透。北星学園大学でも積極的に取り入れています―最近は少しずつフェアトレードという言葉も浸透してきているように思いますが、実際はどうなのでしょうか。
「フェアトレードの産品を扱うお店も2008年には札幌市内で52店舗だったのが今では188店舗に増え、身近なものになっていると思います。また、学校教育でも取り上げられるようになり、10~20代にも浸透してきているのを感じます。主に家庭科の授業で取り上げられるようになってきました。また、フェアトレードに関わるショップや団体、関心を持つ市民による『フェアトレード北海道』の活動に関しては、交流がかなり深まり、確かなネットワークが形成されてきています。」
―そして北星学園大学では「北星フェアトレード」という活動がありますね
「北星学園大学の教員と学生で組織するフェアトレード団体です。フェアトレードフェスタに毎年参加しているほか、自主企画イベントを通して、フェアトレードの商品紹介、販売を続けています。」
―学生さんが中心になってフェアトレード商品を広める素晴らしい機会ですね。
バングラデシュの伝統工芸「ノクシ・カンタ」との出会いがフェアトレードを始めるきっかけに
―そもそも、もともと政治学が専門だという萱野さんがフェアトレードに関心をもったきっかけは
「1991年から96年にかけて国連や赤十字社の職員としてバングラデシュに滞在していた際に『ノクシ・カンタ』という手工芸品に出会いました。バングラデシュでは多くの女性がこの刺繍作品を手掛けてますが、私が出会った生産者さんたちの作品はデザインが素晴らしく完成度も高く、『奇跡の刺繍』と呼べるほどとても感動しました。実はその生産者団体が数年後に経営危機に陥るのですが、制作が再開したとの連絡をいただいたのを機に、フェアトレードで支援することを思い立ったのです。」
―それがきっかけで北星フェアトレードやフェアトレード北海道の活動につながっていったのですね。
フェアトレードを通してものの向こう側にいる人とつながれる
―この先、どんな社会になったらいいと思いますか?
「グローバル化の矛盾、裏の側面が出てきていると思います。どこでどのように作られているのかがわからないものがたくさんあり、人間らしい生活を送れていない人がたくさんいます。そのようなブラックボックスを可視化していかなくてはなりません。ものの向こう側にはたくさんの人がいます。日常を振り返り、ものごとの背景まで考える生活をしていくことが必要だと思います。ものの向こう側にいる人とつながれるきっかけとなり得るフェアトレードが更に広まったらと思います。」
◎おすすめ本、商品の紹介もしていただきました
このほか、映画「THE TRUE COST」((c)TRUECOSTMOVIE 配給:ユナイテッドピープル)、DVD「もっと!フェアトレード」(制作:アジア太平洋資料センター)もおすすめとしてご紹介いただきました。
フェアトレードについて深く知るきっかけ、考えるきっかけになる素晴らしい作品。
萱野 智篤教授
経歴
元・国連開発計画(UNDP、ダッカ事務所)
元・日本赤十字社(ダッカ駐在代表)
現在、北星学園大学経済学部の教授であり、フェアトレード北海道の代表理事を務める。
北星学園大学では「フェアトレードから学ぶ世界」など自分と世界の関係を見直し、それぞれの問題を発見・追求できる講義を複数担当。